てとてと通信から
29年前、てとてと工房として、スタートした時から、毎月「てとてと通信」を発行しています。
その中からご紹介しています。お役に立てれば、幸いです。(高橋)
2022年6月、設立30年となりました。1992年マンションの一室で、スタートしました。「名前の「てとてと」は«手で作る、手をつなぐ»が由来ですが、手作りのおもちゃ作りをしながら遊びの紹介、研究会、などいろいろやってきました。店にカフェを設けたことも…。30年経っても、小さいながら、何とか続けていられるのがうれしいですね。30年前から、ずーとおつきあいしているおもちゃたちも沢山あります。絵本もお父さんが保育園の時に読んだ本をと、お子さんのために来てくださったり、おばあちゃんになって、孫のプレゼントしたいと寄って下さる方がいらしたり、格別うれしいですね。
行司 千絵さんの著書、「服のはなし」*のなかに「路上の編むひと」という一文がある
「気になる人」 てとてと通信 2021年9月号より
あらすじだけだが、京都の三条河原町界隈の路上、ホームレスらしき男性が、道ばたで、黙々と編み物をしていた。それも鮮やかなピンクと黄色の糸で手慣れた様子だった。気になって何とか話しかけたいと思いながら、出来なかった、という内容だった。
私も気になる人がいる。出勤途中の橋の上で、毎日船の行き来を巡視する人である。この暑さ、炎天下で、旗を手に、立ち続ける過酷な仕事だ。「交通誘導員ヨレヨレ日記」なる本を読んでいたせいかもしれない。そのおじさんが、やたら気になってしまった。
その日、川に近づくと、川面にカワウが一羽、忙しく水に潜り、魚を取っていた。それを覗き込んでしばし観察し、顔をあげると、誘導員のおじさんと目が合った。お辞儀をすると、笑顔で何かを言ってくれたが、聞き取れない。
「そうですね、小さい魚がいるんですね」、と返した。私が気になっていたのは、おじさんのヘルメットだ。四角い段ボールの真ん中をくりぬいて、ヘルメットにはめ込んだツバつきヘルメットなのだ。遠くからはツバつき帽子に見える。おじさんが交代する場面も目撃した。ヘルメットをはずした頭には、手ぬぐいを巻き、汗とりも万全だ。
次の日の朝、大雨が降った。あの段ボールのツバはどうなったかと、気になった。その次の日に、橋を通ると、おじさんがいた。「昨日は大雨にやられましたか」、と声をかけた。「はい、少し」と答えたおじさん。
「大変でしたね「と言いながら、私は段ボールの横に緑色のマスキングテープが張ってあるのを見つけた。
なるほど、濡れて弱った段ボールを補修したのかと思うと、これまたうれしくなってしまうのは、どうしてだろう。
「かたつむりハウス」
美しい絵に誘われて、本を開きました。
おばあちゃんの家に、孫が三人。男の子と女の子と、赤んぼうの弟。おばあちゃんが、「ふたりとも私の膝の上においで」と呼びます。
おばあちゃんはお話を始めます。豆のように小さくなってしまった三人兄弟が、お家から逃げ出して、かたつむりハウスに住むことに……。話は続きます。
「何か事件が起きたの?」と聞く子たちに、「もちろんさ」と答えながら、「ちょっとおまち」とベビーカーをのぞき、小さな弟のぼうしをぬがせます。
そして「最初の事件は、ぐらぐら大事件。ある日……」と続けます。とにかく絵がいい。かたつむリハウスも、その周辺の草木、小動物も、野原も畑も。おばあちゃんが話を続けようとすると、またもや事件……。
電話がなり、犬もほえだし、おばあちゃんは、そちらへ。
かたずけて、戻ってくると、「はい、おまたせ! それはね」と続きが始まります。おばあちゃんは、お家のことも、赤ん坊の世話もしながら、お話をすすめます。そして、それはその時に思いついた即興のお話なのです。
ショートカットの美人、あったかくて、何でもこなしてしまう、頼もしいおばあちゃん。
私が小さい時も、おばあちゃんが寝る前にしてくれる昔話が、楽しみでした。上手でもなく、いつも限定のお話しなのに。
私自身が親になり、娘や息子に、絵本を読みましたが、いちばん人気は、「自分が登場する話」だったことを思い出しました。
自分と同じ名前、本人?の話は、最高なのです。
この「かたつむりハウス」は、私が体験した読み聞かせ、そのままのようで、楽しみが帰って来たようです。が、気を付けてください。大人は疲れています。
「昨日の続きして」、と言われた時に、何だっけ? なんて言わないで下さいね。ご注意。(髙橋)2021、8月
< しりとり しよう >
雨の日の病院の待合室、女の子二人とお母さんが座っていました。飽きて、椅子から立ち上がって、バタバタし始めました。スマホから顔をあげたお母さんは、すわっていなさいと叱り、またスマホの画面に戻りました。
その時、戸口から男の子が飛び込んで来て、すみっこにあった子ども用のイスにすわり、その隣りにお母さんが座りました。
二人は、‘しりとり’を始めました。それがなかなかおもしろくて、私は引き込まれてしまいました。全部覚えていないのが残念ですが、名詞だけでなく、人名や地名に加えて、動詞や熟語的なものまで入り、ゆるいルールです。同じものを言わないように、「いぬ」なら、二度目は「いぬのこども」とかに変えたりするのが、慣れているなあという感じです。
「る」のつく字とか、あまりない単語でも、切り抜けて続いていくのです。むろん、相手がおかあさんだから、というのもありますね。そのお母さんは、ずーと付き合うのです。スマホの、出番はありませんでした。
かなり続いてから、男の子が言ました。
「おしまいにしよう、だから、「ん」のつくようにしてね。」
お母さんは、しりとりを受け、ちゃんと「ん」でおわる言葉を返したのです。お見事でした。男の子は満足そうに、笑っています。
延々と続く「しりとり」は語彙力テストのようなもの、ちょっとおまけもあったりしながら、楽しみながら語彙力を(大人も)つけるのだと、感心しました。
スマホから離れられない大人は、こどもの楽しみと学ぶ機会を奪っています。子どもに関心がない? のでしょうか。親子でちいさな楽しみをつくる時間になるのに、もったいないです。
新しいしりとりカードを紹介しましょう。「んことば」 しりとりぐるぐるカードです。しんかんせん→せんすいかん→かんばん、というふうにつなげていくカードです。おもしろい着眼点、です。(2020.11月号)